直近60年の人間心理の歴史から紐解く、心理学の発展と人類の衰退
前書き
世の中には、心理学を使ったいわゆる
- 相手を動かすテクニック
が沢山存在しています。
それは一昔前であれば
- 厳しい言葉をかけて叱咤激励し、他者を鼓舞すること
としてつかわれたり、現代では、
- 相手がまるで自ずから行動を起こしたかのように錯覚するくらい、それとなく心理誘導して、自分の望む結果を得るテクニック
として使われたり、その変遷はこの数十年で激しく、そして陰湿になったように思います。
今回は、人を動かす心理学という超強力なプロパガンダが、何を源流としていて、これから先どのように発展していくだろうかということを考察していきます。
目次
言うことを聞かせる心理学とは
暴力、圧力、脅迫など、物理的にも精神的にも相手を圧迫し、相手の立ち位置を強制的に変えさせる心理学が、平成後期(H20年以降)からの社会問題となっています。
スマホの台頭によって、誰でも暴力や暴言の現場を押さえることが容易になり、簡単に告発できる世の中になったのも要因です。
それでもなお、このような心理学が平然と使われているのでしょうか?
ひとつは、説得より圧力の方が簡単に人が動くからです。
例えば陰湿な例だと、
- 養う家族がいる手前、嫌な仕事でも断ることが難しいことを悪用して、上司が部下に仕事を押し付ける
というようなものです。
このように、酷いと悪質なパワハラと言われるものもありますが、普段はもっと分かりにくい形で世の中に蔓延しています。
このテーマを機に
- 人が他人を動かそうとする時、どのような心理学を使ってきたか
その変遷を今一度整理してみましょう。
私たちの心理学の変遷
"社会進化論" と "フロイト"
皆さんは
という単語をご存知でしょうか?
現代では間違った論理であるとし、日本では死語になりましたが、残念なことに、その思想は日本社会に根強く蔓延ってしまいました。
これはなんなのかというと、まずダーウィンの発表した進化論が「自然淘汰の積み重ねにより、自然界で生き残れる遺伝的形質を持った個体のみが生存し、現代まで優秀な遺伝子が紡がれてきた」という理論であることを応用したものです。
つまり進化論を人間社会の縮図に適用した考え方を指します。
人間にもまた社会適合という観点で優劣があり、優秀な人間だけが後世に歴史や遺伝子を紡いでいくことにより、社会は発達していくのだという理屈が、社会進化論の基本的な考え方となっています。(『残酷な世界で生き残るたった一つの方法』, 橘玲, 2015)
また、別な方面で人間の心理を紐解く研究をしていた精神医学の研究者にフロイトがいます。
彼は患者に無意識に浮かび上がる言葉を声に出させる自由連想法による精神障害治療を行う手法を発表し、世界的に有名な心理学者になりました。
ESとかエゴ、超自我などのワードを何となく聞いたことがある方も多いかと思います。
高校の倫理学の授業でも、今は無きセンター試験でも普通に出てくる分野なので、一般教養として覚えておいて損はありません。
「外向的な気質であることが正常な精神状態であり、内向的になるのは心理的疾患によるものだ」
という考えが根底にありました。
フロイトは、精神病が内から来る反社会的な欲求をもとに湧き上がる不安や強迫観などのネガティブな妄想から来ていると考えていました。(詳しくは高校の倫政の参考書をお求め下さい)
当時は
- 内向的だからネガティブになりやすい
- ネガティブに考えるうち内向的になる
というのがどちらが正しいのかは大した問題ではなく、
- ネガティブな精神状態が続くなら、それに関連する気質はすべからく悪なのだから、何とかして治療しよう
という価値観があったことも要因でしょう。
しかし、現代の精神医学では、内向的か外向的かは単純な心理特性でしかないという研究がメジャーになってきています。
(『内向型を強みにする ーおとなしい人が活躍するためのガイドー』, マーティ・O・レイニー &務台夏子 ,2013年 , パンローリング株式会社 )
そのため、心理学会でもフロイトの心理学は間違いだったのではないかという考えを持つ人が多くなったそうです。
そもそも、内向的な人は世界人口の25%しかいない、ただでさえ少数派な存在なのに、陰キャとか言われるわけですから、
- 無口で陰キャなあの人は、周りと違ってなんか精神的におかしいんじゃない?
と言われるのは、多数派社会な当時から当たり前のことだったかもしれません。
というわけで、ここまで、
を取り上げました。
現代の自己啓発や、人を動かす心理学は、戦前のこのふたつの間違った理屈をベースに作られたと言って、8割がた間違いありません。
以降の章では、その弊害がどのようにして現れていったか考察していきたいと思います。
西部開拓時代(米国開拓時代)
西部開拓時代、ヨーロッパ諸国の白人がアメリカに移民として続々入ってくる中で、先住民だった黒人達は、奴隷として扱われるようになったのは世界史的に有名な話です。
ここで、先程の社会進化論が発揮されることになります。
という、社会進化論からくる人種優劣説が始まったのです。
これが現代で言われる、人種差別の原点と言われています。
社会進化論に基づく人種優劣説は当時の西部開拓時代の権力者には広く好評でした。
白人である、ただそれだけで自分の優位性を無条件で示せるし、黒人である、ただそれだけでレッテルを貼ることができたからです。
そうやって白人は黒人を奴隷とする理屈を作り上げたとされています。
現代では、この社会進化論の考え方だけが消え去り、単純に
- 白人は優秀
- 有色人種は無能
というラベリングだけが残りました。
多分もう、現代社会では、テレビもメディアも、差別する側もされる側も、なぜそんなラベリングがされるようになったのか、よく分かってない人が大多数になっているのではないか?
というのが館長の考察ですが、歴史を正確に紐解くにはまだ時間が必要です。
『思考は現実化する』の裏側にあった差別主義者の思惑
アメリカの鉄鋼王と言えば、
ですね。
- ある書籍
の執筆を依頼しました。
世界初の成功哲学でお馴染みの『思考は現実化する』(原著:『Think Grow and Rich』)です。
『思考は現実化する』の中で、ナポレオン・ヒルはカーネギーの鉄鋼王と呼ばれるまでの道のりを記すと共に、その考え方を掲載しました。
「そぉれがどうしーた?ぼくド〇えもん」となった人も多分居ないと思いますが(笑)
何が問題だったかというと、カーネギーは、その思想に社会進化論を掲げていたということです。(これは当時の本人へのインタビューや書籍に証言がある、有名な話)
なので、『思考は現実化する』というあの超有名な成功哲学本は、後世に社会進化論という差別主義を残す要因となっているトンデモ本である可能性が浮上してくるのです。
今となっては当事者が生きていないので真偽が分かりません。
しかし少なくとも現代版の『思考は現実化する』に社会進化論の要素が入っているならば、差別が無くならない一因はここから来ていると指摘を受けるのも時間の問題でしょう。
暴力から脅迫へ
戦時中重要視された大衆扇動
大衆扇動というと仰々しいですが、一言でいえば、
「より多くの人が反応する言い回し」
ということです。
元はイギリス発祥の扇動師(メンタリスト)が使うテクニックだったとメンタリストDaiGoが自身の動画で紹介していましたが、勘の鋭い方はお分かりだと思います。
そうです。大衆扇動という単語自体も、より多くの人が「なんだなんだ?」と惹き付けられるパワーワードになっています。
- 「人を動かす」
ということに何ら変わりがないのに、
- 「大衆扇動」
と言い換えるだけで多くの人に対して訴求できる「言葉の持つニュアンスの強弱」を上手く使って人身掌握するのが、いわゆる大衆扇動の技術のひとつです。
この技術を行使した時代こそが、かの第二次世界大戦時です。
某独裁者や某国政府が人民の行動を都合のいい方向へ誘導した事例が、最も残っているのがこの時代です。
裏を返すと、大量の人間を間違った方向に誘導した心理学とも言え、ダークヒーローよろしく、このテクニックを正義のために使うのは少々の工夫では容易ではないでしょう。
炎上なんてものはその最たる例で、全くためにならない使われ方の代表例です。
ちなみに、メンタリストDaiGo氏が定義するメンタリズムにも大衆扇動の流脈がありますが、氏曰く
「某独裁者が使った洗脳の技術は確かに悪いメンタリズムと言えるが、人の役に立ちたいと願って使う良いメンタリズムもある」
ということらしく、要はスターウォーズのフォースみたいに、使い手の感情によってよく使われたり、悪用されたりする、幅のあるものというのが、一般解釈のようです。
脅迫から強制へ
戦後盛んになった2つのビジネス心理学
人を操る心理学VS人から操られないようにする心理学
資本主義社会が世の中に浸透し、お金で大体のことは解決できるようになると、お金のためなら何でもするという考えの持ち主も現れるようになりました。
人を働かせ報酬のほとんどは自分がいただく、資本主義のやり口の特徴上、如何にして人を操るかが焦点となりました。
この前提に基づいて作られた数々の人を動かす心理学、人間心理研究の論文が、現在の「自分ファースト社会」を作り上げました。
逆に自分ファーストな存在から身を守るための言い返し方、倍返しの仕方、護身の心理学も開発されました。
- 誰でも動かす魔法の矛
- 誰からの強制も受けない盾
ふたつの相対する心理学が世の中に蔓延したことから、人間関係は心理戦というの醜い応酬に変化するところとなりました。
昭和史から続く悪しき恋愛関係の雑誌ではとりわけ、如何に彼氏・彼女を意のままにするかが取り上げられ、
- ファション雑誌
- コスメ用品
- 美容業界
仕舞いにはデートコースにまで、自分を優位にするための心理学が蔓延ることになったのは、みなさんもひしひしと感じているはずです。
- 恋愛心理学と称したヤリチン正当化テク
が公然と広まり、男女の人間関係も、
- ヤルかヤラレるかの心理戦
という形で戦いの火蓋が切られたのです。
今や結婚より恋愛、恋愛よりセックスが大事だと、まるで常識を語るような口調で言う人も多くなりましたね。
恋愛もセックスもファッション化し、恋愛や結婚における無上の愛は、脆くも綺麗事として扱われることとなりました。
希望を生まない心理学のたった一つの共通点
ここまでの心理学は全ては刺激反応理論(SRT: stimulus response theory)というジャンルに分類されます。
相手の反応の規則性に素早く合わせ、3手詰み5手詰みの如く相手を嵌めていくものです。
暴力や暴言によって人の本能的な従属心を刺激し、反抗できないようにするというのが一般的な使われ方のようです。
現代での洗脳心理学にもSRT心理学を悪用した例があり、
- ターゲットに、自分たちへの興味関心を抱かせる
- 生涯年収・年金・自己実現に必要な資金などの話をして、将来への不安感を煽る
- 当たり前のことを力強く言うことで、お前の心は読めていると洗脳相手に認識させる(プッシュステートメント)
- 世に広まっていない、お金や経済の知識を与えて、正しいことを教えてくれる人と洗脳相手に認識させる
- この人に付き従うことで、自分は望むものを手に入れられると錯覚させる
このステップで相手の心を掌握し、ターゲットを奴隷のように扱うという共通点があります。
言うことを聞かせる心理学
暴力、強い言葉・脅迫など、物理的にも精神的にも圧力をかけて、相手の立ち位置を強制的に変えさせる心理学が、現代の社会問題となっています。
では、逆にひと昔前までは、このような心理学が平然と使われているのに、なぜ許されていたのでしょうか?
ひとつは、圧力をかけるより簡単に人を動かす技術が使われるようになったからでしょう。
強制から誘導へ
理解させ行動を促す心理学の台頭
コーチングに代表される人を動かす技術は、相手に理解を促し、行動を動機付けることで、自分の望む結果を引き出すことを目的にしています。
など、相手を自発的に行動させるためのノウハウが盛んになり、それを題材にしたセミナーも開かれるようになりました。
誘導から洗脳へ
恋愛心理学から勃発した、雌雄冷戦
人を恋に落とし、自分の意のままに恋人を作り、結婚相手にふさわしいか冷酷に選別していく。
ビジネス心理の発展系として誕生した恋愛心理学は、愛情を感じない冷たい心のまま、人との暖かな関わりを作り出すという矛盾を作り出しました。
男女の色恋を利用して金儲けする人間が
恋愛心理学の本来あるべき姿:すなわち男女の睦まじい関係性
それとは程遠いものを生み出しました。
- 恋愛心理を突かれ、知らぬ間にヤリチンの虜になり食い尽くされる女
- それを見て自分も騙したくなる後発のヤリチン勢
- 逆に恋愛心理を使う女は、港区女子と称され
- 男女の関係はまさしく騙し合い合戦
これで少子化が解消できるなら今すぐ止めてみろよと言いたい。
まあ土台無理ですかね(笑)。
どこまで行っても人を動かすことは変わらない
コーチングや教え諭すことを
- 争うことも傷つけることも無く人を動かす技術
と言えば聞こえはいいです。
しかし、使う人間の根底にある心理に
- 相手に行動してもらいたい
- 相手に変わってもらいたい
という、人を動かす前提がある限り、それに絡む問題が解決することはありません。
相手を心理誘導することによって、自分の思う結果を引き出すという点では、人から愛情を受けることも技術としては可能です。
ですが、心理誘導で愛情をかけてもらうよう仕向けたとしても、その結果、深い愛情を感じることが出来ますか(出来ましたか)?
普通は感じられないはずでず。
なぜなら、相手が自発的にあなたを愛した時に受ける印象とはまるで別物だからです。
この世には誰の愛情も受けられず、金さえあれば人からたくさん愛されると思っている数多の経営者、投資家がいます
彼らがいつまで経っても、誰からも愛されず後ろ指指されるのは、人を動かすことの何たるかを履き違えていることから来ていることをよく覚えておきましょう。
心理学のパラダイムシフト
あえて力を使わないという選択
力を行使するのは弱さの裏返し
私たちの周りの様々な心理学は、私たちが自分都合の結果を引き出すために作り出したものです。
小手先の大衆扇動で得た信頼関係にはいつか終わりが来ます。
令和のダイバーシティ社会の実現のためには、相手に変わってもらうのでは無く、自分が寄り添うしかありません。
そのためには、あえて心理学は使わないという、勇気ある選択が必要なのではないでしょうか。
「己がひ弱さ故、力を欲す」
かつて君子と呼ばれた人達は、ことをなすには武力ではなく知性が重要だと説きました。
現代に意訳するなら、
「相手をコントロールすることに力を注ぐよりも、自分の品性を磨くことが1番大事」
ということなのかもしれません。
品性が人望となり、人望が数の力となる。
この力強い結び付きが、ただでさえ薄っぺらいネット社会では、とりわけ重要なのではないでしょうか?
おわりに
今回はこんな感じですが、いかがでしたか?
心理学の歴史は必ずしも精神科医が作り出したものでは無いし、精神科医ですら間違った知識を世に広めてしまうこともあります。
とりわけ人を動かすという、主従関係と紙一重な行為は、時として乱暴な理屈が絡んでくることもあります。
私たちは、できる限りちゃんとした知識を得て、自分は間違っていないと信念を持てる状態にしておくことが求められているように思います。
ある意味それが自信にも繋がってくるし、自信からくるモテ要素にもなってくるのだと思いますので(笑)、注意して生きていきたいところです。
それではまた次回の投稿でお会いしましょう。
(「・ω・)「ホイ